「すご~い!きれいだね」
私の隣に立っている男性──真経津くんは、屈託なく笑い水槽の魚たちを無邪気に目で追いかけている。
「うん、きれいだね」
私は真経津くんの横顔を見つめながら呟く。
館内に人はまばらで、大きな水槽もよく見える。
とても良いロケーションだった。
真経津くんとこうしていられるのが夢みたいで、私の心はずっと高鳴りっぱなしだった。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
私の方を振り向き、ニッ、と真経津くんは笑った。
顔が赤くなってるの、気付かれちゃったかな。恥ずかしい。
「だって…」
「うん、だって?」
「……」
真経津くんは私の言葉の先を待っていたけど、言葉を濁す私に待ちくたびれたのか、興味が水槽の魚へと移ったのか、やがて水槽に目を戻した。
…この言葉の先は、まだ言えない。
きっと彼はもう気付いているだろうけれど、それでも、私にちゃんとした覚悟ができるまでは、言ってはいけない。そんな気がする。
あの日、賭場で命の煌めきを魅せてくれた真経津くんに、どうしようもなく惹かれ、手に入れたいという強い衝動を感じた。
けれどその願いは同時に、彼の内に潜む暗く果てしない闇すらも受け入れなければならないことだと、私は理解していた。そして、それがとてつもなく恐ろしいことだとも。
水槽に反射した私たちの姿を見る。
水族館へ来ている若い二人組──客観的に見れば、きっと普通の恋人同士のように見えるかもしれない。
けれど私と真経津くんの関係は到底普通とは言い難く、きっとこの時間が終わればまたすぐに「観戦客とギャンブラー」の関係に戻るのだろう。
「……淋しいな」
つい、本音が零れてしまった。
「見てるだけじゃ、駄目なの?」
「……っ」
私の心の内を全て見透かしているようなその瞳を真っ直ぐに向けられ、息が詰まりそうになる。
「……うん、駄目…みたい……」
「そっか」
真経津くんはそれ以上は何も言わず、おもむろに私の左手に触れ、指を絡めてきた。
「………………!」
心臓が早鐘を打つ。
頬が熱い。
呼吸が乱れる。
繋いだ手のひらから感情が全て伝わってしまっているみたいだった。
ああ、このまま時間が止まればいいのに。
あなたに一言「好き」だと言えたら、あなたのことを引き止められたのだろうか。
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